和菓子を通して季節を【和菓子教室講師 伊藤 郁さん】

元和菓子職人 伊藤郁(かおる)さん

鎌倉にこんな素敵な方がいたなんて!という方をご紹介します。

今月ご紹介するのは和菓子教室講師の「伊藤郁さん」です。

伊藤さんは老舗和菓子屋で和菓子職人・広報と活躍されたのち、退職されてからは和菓子教室講師として和菓子の魅力を伝える活動をされています。

「呼んでもらえればどこにでも向かいますよ。」と仰る伊藤さんの優しい笑顔は周囲の空気を和ませます。

私も2回ほど教室に参加させていただきましたが、和菓子の奥深さや伊藤さんが経験された話がとにかく面白いのです。

伊藤さんの手から数十秒で生まれる和菓子の数々は芸術作品そのもの。

そして思わず和菓子屋さんを覗きたくなるお話、どうぞお楽しみください。

伊藤さんインタビュー

こまさ:伊藤さん、急な依頼にも快諾いただきありがとうございました。

早速ですが、伊藤さんは鎌倉だけでなく全国で和菓子教室を開催されていらっしゃるのですね。

伊藤さん:こちらこそよろしくお願いします。

 おかげさまで国内各地でで開催しています。

 和菓子の魅力を一人でも多くの方に伝えていくのが私の仕事です。

 元々餡子が嫌いだった私が和菓子を伝えているのも導かれているのだと思いますよ。

思わず声が出るほどきれいな和菓子。
菓銘は「あじさい」です。

こまさ:え!餡子が嫌いだったのですか?

そもそも和菓子の道に進んだきっかけはなんだったのでしょう?

伊藤さん:私は大学付属の高校に通っていたので、当然大学に進学する予定でした。

 付属でしたから進学率は97%という学校です。

 私が高2の頃、鎌倉に引っ越してきたのですが、引っ越し後わずか3カ月で父は病で急逝してしまったんです。

 そこで家計を支えるためにも急遽大学進学をやめ、就職を考えました。

 担任に相談をし、いくつかあった就職先の一つが老舗和菓子屋だったんです。

 技術を身に付けるために選んだ会社が和菓子屋でした。

 私が餡子嫌いなのは親戚中でも有名でしたから当時はずいぶん驚かれましたね。

こまさ:そうでしたか。

大きな転機だったのですね。

伊藤さんが感銘を受けた「手折桜」。
木型を使って作り出されます。

伊藤さん:入社後の研修では自社商品の試食があり、毎日和菓子を食べなくてはいけなくて本当につらかったです(笑)

 でも、ある日「手折桜」という菓銘の和菓子が出されました。

 「春先、咲き誇る桜があまりに綺麗で思わず枝を手で折って家に持ち帰りたくなった」という背景のお菓子なんです。

 それを見て「こんなにきれいなお菓子を作ることができるんだ。」と思い、調べると今まで知らなかった世界が学べて楽しくなってきたんです。

こまさ:感銘を受けるお菓子、貴重な体験です。

在職中は色々な部署を経験されたのですか?

伊藤さん:そうですね、最中、生菓子、焼き菓子、羊羹など。 

和菓子はもちろんですが、貴重なお話や面白い話などトークも素晴らしいです。

 菓子ごとに部門が分かれているのですが、いくつもの部門を経験してきました。

 海外店への技術指導にも行きましたし、広報に移ってからは会社案内や各メディアの対応など年間1000人ぐらいの方とお会いしてましたね。

 そのうち和菓子教室を開いてほしいという声をいただき、会社を退職して現在にいたります。

こまさ:どんどんと活躍されていますね。

では伊藤さんから見て和菓子の魅力は何でしょうか?

伊藤さん:和菓子は色や形を変えて季節を味わえるのが一番の魅力だと思います。

 和菓子は一カ月ほど季節を先取りするんです。

 桜だったら2月ぐらいから作り始めるので、お店に来たお客様が「そろそろ桜の時期だな。」と思ってもらえるようになっています。

 本当はね、お菓子ってなくても生きてはいけるんですよ。

 でも、音楽や絵画などと同じでお茶とお菓子で安らぐ時間を味わえる。

十五夜。シンプルなデザインなのに何を
表しているかすぐにわかりますね。

 みなさんが和菓子を通して季節を感じ、ほっと一息ついて心が豊かになったら嬉しいじゃないですか。

 気にしない方もいるとは思いますが、そういうちょっとしたことを取り入れるのが大事なことだと思っています。

こまさ:たしかにそうです。

お祝い事や記念日などの彩を加えてくれます。

伊藤さん:ある日、会社見学に来ていた中学生の男の子が「和菓子に未来はあるんですか?」という質問をしてきたことがあったんです。

 そんな質問がくるなんて思わなかったから驚いたのですが、考えた答えが

軽快なトークと共に職人技で
次々とお菓子が作られます。

「洋菓子のような華やかさはないけれど、年齢を重ねていくとお茶と餡子が日本人として必要だなと思う時がくると思います。その時が本当の意味で大人になったということにもなるし、そういう時期が来るから和菓子はなくならない。暗い未来ではないんですよ。」と伝えたことがありましたね。

こまさ:おお、すごい質問に素晴らしい回答ですね!

色とりどりの寒天を乗せてアジサイを
表現。涼し気で綺麗です。

では、和菓子をより楽しむ秘訣はありますか?

伊藤さん:五感で楽しむのがいいと思いますよ。

視覚・色使いと綺麗な出来上がり、抽象的、具体的なデザインなど楽しめます。

味覚・美味しさはもちろん、原材料のもつ味、風味、甘さなど多くの要素があります。

嗅覚・和菓子はお茶と共に歩んできているのでお茶の香りを邪魔しないようほのかな香りになっています。

触覚・口に触れた時の口当たり、口解け感、肌触り、弾力などが楽しめます。

聴覚・菓子にはそれぞれ菓銘(かめい)つけられています。季節の花や古典文学、名所旧跡などの名前を耳から聞き、楽しんでいただきたいです。

 見て食べる、以外にもイメージを膨らませることが大切ですね。

菊。こちらも木型を使い、生地は淡い色で仕上げるようにしています。

こまさ:五感で楽しむ、是非取り入れたいです!

では最後に伊藤さんがみなさんに伝えたいことをお願いします。

伊藤さん:やはり、和菓子屋の店頭で季節を感じて欲しいということですね。

 人って食べ物の話が嫌いという方、あまりいないと思うんです。

 このお店が美味しい、こんなお菓子を見つけた、など誰にでも話がしやすいのが食べ物です。

 コミュニケーションが広がるお手伝いにもなると思うので是非和菓子屋に足を運んでもらえたら嬉しいです。

こまさ:伊藤さん、今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

一年の四季を表した和菓子
奥の段左から桜、スズラン、朝顔。
中段左から菊、十五夜、柿。
手前の段左からゆず、寒牡丹、白鳥。

伊藤郁氏 プロフィール

鎌倉市在住

高校卒業後『株式会社 虎屋』に就職。

45年間勤務し、2016年2月に退職。

在職中は東京、京都の工場で30年以上菓子作りに従事。

菓子以外にも広報課に12年間勤務し、広く和菓子の魅力を伝える。

 

現在その製造技術、経験を活かし、各地で和菓子教室講師として活躍。

2018・2019年には中国「北京・上海」(日本大使館、領事館依頼)。

日本台湾交流協会依頼で台湾「台北・高雄」での和菓子講演も行う。

出演番組:「和風総本家」、NHKeテレ「趣味どきっ!」

他各メディアに多数出演

※伊藤さんは個人で活動されているため連絡先の掲載は控えさせていただきます。

インタビューを終えて

伊藤さんのお話はいかがでしたか?

秋といえば栗。栗を生地に練りこむことで風味が変わります。

和菓子の歴史は長く、前職の会社は千利休のお茶会にお菓子を提供していたとのこと。

日本人だからこそ理解できる時間や季節の移り変わりを表現した和菓子はとても奥深いものを感じます。

また、和菓子には4つのルーツがあることなど歴史についても学べました。

伊藤さんが笑顔で話す内容にいつの間にか引き込まれ、和菓子屋に行ってみたくなるのです。本当に素晴らしいですよ!

依頼があるうちはずっと和菓子教室を続けるという伊藤さんの活躍を心から応援したいと思います。頑張ってください!

2件のコメント

伊藤先生の和菓子に対する思いや技術のみならず、お人柄にも惹かれ、何度かレッスンをお願いしました。我が教室の生徒さん達も大変喜び、今回の本もぜひ買いたいと言っています。

腰痛のことがちょっと気になっていますので、その辺は無理のないように。
これからもますます素晴らしい和菓子の世界を広めていく使命を楽しみながらなさることを陰ながら応援しています。

コメントいただいたにも関わらずお返事遅くなり申し訳ございません。
伊藤先生の技術はもっと多くの方に知っていただきたいと思っております。
全国を飛び回るご多忙な先生ですが、無理のない範囲でお願いしたいですね。

私も微力ながら応援していきたいと思っています。
お言葉をありがとうございました。

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