文豪が通った老舗 【天ぷら ひろみ】

天ぷらひろみ 佐藤昌彦・めぐ美さん

鎌倉小町通りに入り、少し進んだ左側のビル2階。

三代目店主の佐藤昌彦さんと奥様のめぐ美さん

60年以上続いてきた天ぷらの名店があります。

今回はその三代目店主天ぷら ひろみ」の佐藤さんご夫婦にお話しを伺ってきました。

地元に根付いた味は鎌倉の文士達、文芸批評家の小林秀雄氏や映画監督 小津安二郎氏などが足しげく通っていたことでも有名です。

今もなお、材料や調理法への探求は続いており、佐藤さんのお話にはたくさんの「ご縁」が登場します。

また、いくつかの試練に対しても「絶対に乗り越えてやる!」といつも立ち向かってきた佐藤さん。

静かに熱く思いを語るご主人とその横で素敵な笑顔でうなずく奥様。

天ぷらひろみさんのお話、お楽しみください!

戦後の混乱の中

暖簾をくぐると小町通りとは思えない落ち着いた空間に変わります。

こまさ:佐藤さん、お忙しい中ありがとうございます。

早速ですが、ひろみさんの創業について教えてください。

佐藤さん :はい、創業は祖父が64年前、戦後の荒廃した状況の中、天ぷらの定食屋を始めたところからですね。

戦前から料理人として修業をしていたのですが、終戦後は東京から鎌倉に移り、ヤミ市で材料を仕入れながら始めたようです。

祖父と祖母の名前をとった「ひろみ」という名も当局から天ぷら屋ということを隠すためだったそうです。

こまさ:戦後はお店を出すことも大変だったのですね。

佐藤さん :そうですね、そんな祖父を支えてくれたのは、東京から鎌倉まで食べに来てくださるお客様だったと聞いています。

また、祖父の時代はガスではなく、コークスという炭を使った調理器具だったので、油の量や配合も独特だったようですね。現代では考えられない調理法です。

青天の霹靂

初代の佐藤寛次氏と当時の店舗

こまさ:昔の調理法は炭だったんですね!二代目のお父様はいつ頃継がれたのですか?

佐藤さん:ひろみを継ぐのは父の兄の予定でした。

ところが、事故によって叔父が急逝してしまい、急遽父が継ぐことになったんです。

それまで手伝いをしたことはあっても、「跡継ぎは自分ではない」と思っていた父は特に教わることもなく過ごしていた状況でした。

しかし、環境の変化で突然後継者になったんです。

こまさ:急なことでお父様もご苦労されたと思います。勉強も大変だったのでは?

秘伝のたタレがかかった天丼、食欲をそそります

佐藤さん:それが、祖父は何も教えることなく、突然亡くなってしまったんです

次の日からは揚げ方も教わっていなかった父が天ぷらを揚げることになったのです。

しかし、祖父の天ぷらを求めてきたお客様からは 「なんだこれは!」と言われてしまいます。

祖父がやっていたことを見様見真似だけで乗り越えた父は本当に大変だったと思います。

三代目の試練

カウンター席での食事は店主との会話も醍醐味のひとつ

こまさ:ご苦労は並大抵ではなかったと思います。昌彦さんがお店に入られたのはいつごろになりますか?

佐藤さん:学校を卒業してからしばらくはアルバイトなどしていました。でも、違う職種をやるぐらいなら、お店に入ろうというのがきっかけでしたね。

そして2021年の1月に父が脳梗塞で倒れてしまったんです。コロナ禍だったとはいえ、お店を閉めるわけにもいかず、その日から私がメインとなり、天ぷらを揚げることになりました。

こまさ:え!お父様の時と同様大変でしたね。

佐藤さん:繰り返す形になりますが、私も父から揚げ方を教わってはいなかったので、父の真似をしながらの調理でした。

ありがたいことなのですが、当時カウンター席は連日満席。

調理だけでもどうしたらよいかわからない状態なのに、カウンターのお客様と会話をしながらの調理は頭の中が真っ白でした。

サクサクの天ぷらは天つゆも塩も良く合います。

そのような状態でしたので、常連さんからはお叱りを受けたこともあったんです。

それでも常連さんは来店してくださって、「美味しくなったね」との言葉をもらった時は本当にうれしかったですね。

「ひろみ」のことを思ってくださるのが伝わりました。

 

こまさ:現在お父様から指導は受けているのですか?

佐藤さん:いえ、受けてないです(笑)父も祖父から教えを受けたわけではないので、どう伝えたらよいかわからないのだと思います。

今は何も言わずに見守ってくれていますね。

素材へのこだわり

天ぷらに合うご飯を炊くための釜と注文の都度大根をおろすおろし金

こまさ:ところで、ひろみさんでは使う素材はこだわりがあると聞いています。

佐藤さん:そうなんです。例えばお米に関しては数年前から色々考えていました。

天ぷらに合ったご飯を炊くにはどうしたらよいかと。

結果としてガス釜ではなく昔ながらの釜で炊くのが一番おいしくできるとわかりました。

 たまたまなのですが、昔のアルバイト先のご縁で、知人が水分量や気圧など微妙な調整を研究し、その日の条件に合ったベストな炊きあがりにしてくれるんです。

こまさ:なんと心強い!野菜は自家菜園で栽培しているのですか?

佐藤さん:野菜のことは勉強したいと思っていたので「野菜ソムリエ」の資格を取得しました。

そして自分でも作ってみたくて、伊勢原に畑をかりました。

ただ、通うのが大変だったので近場の畑を探したのですが、条件が合わず困っていたんです。

これもたまたまなのですが、自宅近くのお寿司屋さんで店主とお客さんの会話に「畑」という言葉が妙にでてくる。

思い切って声をかけたら、田谷の畑を紹介されたんです。

しかも師匠付きです(笑)。

厳しい師匠ですが、そのおかげでお店に出せるほどの野菜が作れるようになりました。

 

 

 

引き寄せられるご縁

こまさ:いつも必要な時にご縁がありますね!

佐藤さん:本当にそうなんです!私が今こうしているのはお客様、陰で支えてくれている方たちのご縁のおかげなんです。出会ったみなさんが私を育ててくれているのだと思うと感謝しかありません。

こまさ:きっと代々引き継がれたお人柄あってのことだと思います!では最後に一言お願いします。

佐藤さん:はい、当店では四季折々の旬を美味しく召し上がっていただけるよう、厳選した素材を使用しています。

調理も一つ一つ丁寧に仕上げていますので是非一度、足をお運びください。

お待ちしております。

こまさ:佐藤さん、今日はありがとうございました!

インタビューを終えて

天ぷら ひろみ佐藤さんのお話はいかがでしたか?ひろみさんは今年で64年目を迎えたそうです。初代から始まったお店の味はその代ごとに試行錯誤の上作り出されてきたものでした。

一時的な変化があっても通い続ける常連さんたちからは「ひろみ」への深い愛があるのだと感じます。

また、佐藤さんがこの道をたどるために用意された「ご縁」。

感慨深いものを感じます。

そして何より初代と先代への憧れ、感謝、尊敬の思いが佐藤さんの言葉からあふれていました。

これからの佐藤さんを全力で応援したいと思います。美味しい天ぷら、また食べに行きます!

天ぷら ひろみ

 

◆住所 鎌倉市小町1丁目6-13 寿名店ビル2階

◆電話 0467-22-2696

◆定休日  水曜日

◆営業時間 11:30~14:00

17:00~19:30(最終入店)